第14話 恥ずかしかった日
ルイくんの飼い主さんと揉めて、警察沙汰となりましたが、アパートに戻ってきた空。
その後、取りあえずはアパートを引っ越したほうが良いように考えました。
それにはルイくんの飼い主さんとの話し合いも必要です。
なぜって空はルイくんを飼い主さんに任せなければいけませんでしたし、かといって空の部屋に来るルイくんが心配でした。
ある日、マラソンの練習に行く飼い主さんに会いました。「あのルイくんの事なんですが」と空が言いました。
「あげる」と一言だけ言うとスタスタ走って行ってしまいました。
な・な・何なんですか~!あ・あ・あげる~?
空は呆気にとられましたが、話し合いは必要だと思いました。
警察沙汰になる少し前の事です。
空とルイの飼い主さんは仲の良い時もありました。
そんなエピソードのひとこまを書いておきましょうかね?…空さん。
土曜日の昼頃です。
「おい、お前一緒に焼肉屋行くぞ!○○橋知っとるやろ、はよ用意しいまいや(しろ)」
いつも空の事を『お前』と言うのは、どうも口癖か礼儀を知らないのかのどちらかはわかりません。
空は今まで生きてきて他人からお前と呼ばれるのは初めてでした。しかも近所に住んでいるだけの人に…。
「わし走って行くし、お前は自転車で来い」
と言うとさっさと走り出しました。
行きは緩い上り坂で、脚力のない空は遅れてしまいました。ルイくんの飼い主さんは見えません。
『○○橋だったよね』と思いながら、きつい坂になると自転車を押して歩きました。
「おい!遅いぞ」とヒョイと小路から声が聞こえました。『マラソンしてる人に勝てるわけないでしょ』と心の中で呟きました。
自転車を停めてガラガラと戸を開けると、カウンター席へ。かなりの歳のおばあさんが1人で切り盛りしているようです。
カウンターに座ると「ばあちゃん、先ずはビールとレバーお願いします」と慣れた感じで注文します。
空はおばあさんに「あんたは?」と聞かれて「豚バラとシロお願いします」と言いました。
そのうちに酔いが回ってくると「お前ダラやろ(バカの方言)」を連発するルイの飼い主さん。
おばあさんの目付きが変わりました。
「だからそのダラって言うがやめろって言うとるやろ、他のお客さんに迷惑や」
何度かその言葉があり、ようやく「おい帰るぞ」とルイの飼い主さんは席を立ちました。
空はなだめるように玄関の方へと促しました。
そしてお店を出るときに何も言わずにペコリと頭を下げましたが、恥ずかしくて顔が真っ赤か真っ青かわかりませんでした。
帰り道は千鳥足で歩く飼い主さんが車に跳ねられるかと空は自転車を押して歩きました。
美味しそうな柿がなっている家の前に差し掛かるとおじいさんがいます。
「あの1つでいいのですが、柿をいただけませんか?」と空は尋ねました。
三脚を出して柿の実を採って手渡して下さいました。
すると千鳥足のルイくんの飼い主さんが急に、おじいさんに「これとっとけや」と千円札を渡そうとしました。
みるみるおじいさんの顔が変わり「そんな事するんなら柿返せ」と言いました。
空は申し訳なくて悲しくて「この人は酔っているんです。今度必ずお礼に伺います」と言うと柿をしっかり胸に抱いて、ルイの飼い主さんを引っ張るようにしてペコペコ頭を下げながら半泣き状態でその場を立ち去りました。
さて、ルイくんとマナちゃんの話しとはずれてしまいました。
だけど空は書いておきたかったのですよね…
楽しい事が結局は災難になってしまうルイくんの飼い主さんとの日々を。
第13話 飼い主さんとルイの狭間で
前にも少し触れたかと思いますが、3階建てのアパートの1階には5件あります。
「ルイくんが家に来ていますが良いんですか?」と何度も聞く空の質問に興味もない感じでしたが、この後まもなく事件が起きます。
第12話 親切が招く災難へのプロローグ
マナちゃんが無事に退院し、季節は秋から冬になっていきます。
ルイちゃんの飼い主さんは女の子だと初めてお会いした時に言っていたはずですが…
マナちゃんと違って短くて太い尻尾のルイちゃんは尻尾をピーンとあげると、男の子の象徴がよく見えます。空は男の子だとわかりました。
ある日、飼い主さんに会った時に空は「あのルイちゃんは男の子ですよね」と言いました。
飼い主さんの反応は「先輩からルイをもらった時に乳房があるから女の子と言ったので女の子だと思って」
な・な・何なんですか~!
ここからが嘘八百の始まりだったのかもしれません。初めてお会いした時から…。
マナちゃんが無事に退院したのは9月27日でした。この地方は10月になると少し肌寒くなります。
時折ルイくん(男の子だとわかりましたので)は朝ベランダに来るのは変わりませんが、大きな病の後のマナちゃんにストレスになってはと空は思いました。夜と会社が休みの土日だけはルイくんを部屋に入れて様子を見ました。
マナちゃんの退院後の初めての診察の日にマナちゃんとバスで獣医さんへと出掛けました。
良い獣医さんに巡り会った事もあり、家に遊びに来る猫がノミがいそうなのでと写真を見せて相談しました。
「かなり痒そうだね、もしかするとダニやシラミもいるかもしれないな」と獣医さんは言いました。
ノミどころかダニやシラミまで~!
これ使うと直ぐにいなくなるからとレボリューションという薬を「猫の手やなめられない場所につけてあげるといいよ」とマナちゃんの首の後ろにつけてくれました。
マナちゃんにもうつるかもしれないと薬を付けるお手本を見せて下さったのでした。
ルイくんはその日ベランダに現れませんでした。
とにかくルイくんの痒いのを早く治ってほしかった空は飼い主さんの部屋のチャイムを押しました。
珍しくルイくんも飼い主さんの部屋にいたようです。空はレボリューションを出して獣医さんが付けた見本の通りに教えました。
その時の親切がこれから続く最悪な状況になると空は思ってもいませんでした。
この地方では10月になると肌寒い日があります。
空はいつも10月になるとファンヒーターのために灯油の配達をお願いするくらいです。
マナちゃんは空が仕事の間寒くならないようにペット用ホットマットをしています。
ルイくんの飼い主さんは夜中の寒さに耐えられなくなったのかルイくんが自由に出入りしていたベランダの窓を閉めてしまうようになりました。
それはいいのですが、ルイくんが外へ出ていても閉めるようになりました。
お会いした時に空が尋ねました「窓を閉めていますがルイくんは大丈夫ですか?」と。
その答えは「俺はルイが帰ってきた時の声がわかるからな」というものでした。
空は「そうですか、それならいいのですが」と言うしかありませんでした。
ルイくんの飼い主さんは本業の他にホステスの送迎のアルバイトをしています(9話で述べられていますが)
なんと言ってもルイくんは飼い主さんのいる猫、空が構う事は筋違いです。
だけどルイくんは毎日のように空の部屋のベランダに来ます。
そんなルイくんを空は追い払うことが出来ませんでした。
昼間でも暗くて電気をつけないと真っ暗です。寒い季節が日々足早に近づいてきました。
第11話 信頼できる医師との出会い
朝になっても苦しくて寝たきりのマナちゃん。
「何とか持ちこたえてマナ」
空は泣きながら診てくれる病院を探します。
タクシーで行けそうな病院が見つかり、電話をかけました。
マナの昨日からの様子を伝えると「昨日診てもらった病院に行ったほうが良いのでは?検査も二重になりますし」と受付の方が言いました。
「私は車がないので、その病院までとても行けそうにないのです、お願いします」と必死でお願いする空です。
「わかりました、では連れて来てください」
空はタクシーを呼び、マナちゃんをキャリーバックに入れました。
病院まで行った時の記憶がありません。空はそれくらい動揺していました。
病院に着いた診察時間が早かったためか直ぐに見てもらえました。
血液検査とレントゲンの結果や昨夜のマナちゃんの様子を見た医師は「病名は未だわかりませんが息を吸うだけで吐けないようですね。酸素室に入ってもらうことになります」との事でした。
マナちゃんの細い腕に点滴の針が注されて固定されました。
マナちゃんが酸素室に入ると「何か変わったことがあれば連絡して下さい」と看護師さんに言うと、空は病院を出てアパートに戻りました。
帰りのバスは混んでいました。空は吐きそうになるのを堪えるだけで精一杯でした。
ようやくアパートに着くとマナちゃんがいないことの事実を見ました。
「マナがいない、マナがいない」
どこを見てもいつもは仕事から帰宅した時は、マナちゃんが待っていてくれました。狭いアパートですので、そこここにマナちゃんがいた姿が目に浮かびます。
「マナがいない」それは空にとっては耐え難い苦しみでした。
翌朝は会社に連絡してお休みをもらいました。
そして病院が開く9時に合わせて「マナは大丈夫なのだろうか?マナに会いたい」の一心で面会に行きました。
「どうぞ」という看護師さんに連れられマナちゃんがいる酸素室のある部屋に通されました。
マナの細い腕には点滴が繋がれていました。
少しおびえた表情のマナちゃんがいました。
点滴の管を引きずって何歩か歩いて近づいて来るマナちゃんを触ってあげることも出来ません。
酸素室にいるマナちゃんの表情を忘れる事が出来ませんでした。
そして空は以前見た事のある動画を思い出したのです。
それはなくなったお母さんの側を離れず雨水で喉の渇きを潤し、お母さんの元に食事を運ぶ子猫の表情です。子猫は疲れていますがお母さんの側を離れずにいるのです。
第10話 試練の訪れ-マナちゃんの急変
ルイちゃんが部屋に来るようになってから暫く経ちました。
いつも部屋のテーブルの上にいるルイちゃんです。
ルイちゃんは痒いのかよく首の辺りを掻いています。空はルイちゃんが掻いていると「カイカイカイカイ」とルイちゃんが掻く度にそう言いました。
テーブルの上を見るとゴマ粒のようなものが沢山落ちています。
マナちゃんを拾った日に獣医さんの所に行った時の事です。「蚤がいますね、黒い粒々が蚤の糞です。蚤取りの薬を塗っておきます。これを塗ると蚤が死ぬので大丈夫ですよ」
診察台に落ちた黒い粒々が蚤の糞~?
空はその光景が忘れられませんでした。
ルイちゃんが帰って行くとテーブルの上に大量に落ちている蚤の糞を拭くのが日常になっていました。
そんなある日の土曜日の夕方のことです。
ルイちゃんが帰り、1週間仕事と部屋に遊びにくるルイちゃんを見ていた疲れが出たのか空は、うつらうつらと寝て目が覚めました。
空はマナちゃんの様子がおかしいことに気がつきました。
名前を呼んでも全く動かず呼吸が苦しいのがわかります。どうしてよいかわからずに「マナ、マナ」と空は泣きじゃくりました。
空は泣きながらマナの様子をスマホで動画を撮りました。
診察してもらう際に医師にマナちゃんの様子をみてもらうために…。
必死で開いている動物病院を探しました。
何件か救急で診て下さる病院に電話をしました。
有名な3件の獣医はその日に限って3件の医師が難しい病気の猫の手術を一緒に行っていました。
もう診てくれる病院をさがすのがその夜に限って難しくなったのです。
空の声も手も震えていました。
今まで病気らしい病気をせずに大きくなったマナちゃんの急変に空は動揺しています。
実家に電話をして事情を伝えると診察可能な病院を手分けして探しながら空の住むアパートへと向かってくれていました。
何とか診察してくれるという病院に実家の人が運転する車で向かいました。
空の住むアパートからはとても遠い病院でした。深夜で道路が空いているにも関わらず、到着までにかなり時間がかかりました。
受付も獣医師ひとりです。
診察室に入り、レントゲンと血液検査をするから待合室で待っていると結果がわかったのか医師に呼ばれました。
「レントゲンの結果では異常が見当たりませんが白血球の数値が高いので抗生物質の注射をしておきます」との事でした。
深夜の診察とあって料金が高く、空と車で連れてきてもらった実家の人も持ち合わせが足りませんでした。キャッシュカードが使えますとの事でカードで支払いを済ませてアパートまで帰りました。
実家の人も空を送り届けると帰って行きました。
空はペットキャリーからマナちゃんをそっと出して布団の上に寝かせました。
マナの苦しい様子は変わりません。夜が明ける頃、動かなかったマナちゃんがヨロヨロと起き上がりトイレの側に行った時「にゃ~」と聞いたことがないような声で3回鳴くとトイレでオシッコをしました。
最期の叫びかと思うような鳴き声に空はうろたえて、もうマナちゃんは駄目かもしれないと泣きながらトイレから布団に横になったマナちゃんを見ながら「マナ、マナ」とすすり泣きました。
動物病院は午前9時からが殆どです。
しかも日曜日です。診察してくれる病院はあるのでしょうか?
そして深夜に病院まで行ってくれた実家の人は明け方に近い時間に実家に帰ったのですから空はタクシーで行ける病院を探すことにしました。
「マナ何とか持ちこたえて」
さてマナちゃんの突然の急変、病院は見つかるのでしょうか?
『空、泣かないで!マナのお母さんでしょ』
と言う影の声である私もそう言いながら、泣きじゃくり震える手で携帯電話でマナちゃんを診察してくれる病院を探す空を見てドキドキが止まらないのですけれども…
試練は突然過ぎますね、ではこの続きは次回へと続きます。
『マナちゃん頑張って、あなたがいないと空は生きていけないくらい苦しいのですから』
第9話 部屋に入ってきたルイちゃん
引っ越してきて1週間あまり「んな~んな~」と徘徊するかのように鳴いて姿を見せなかったルイちゃんですが…。
1ヶ月が経った頃、飼い主さんのベランダの室外機の上に座っているのを見かけるようになりました。
この辺りを全て網羅しつくしたのかなと空は考えました。
空がマナちゃんといつものようにアパートの後ろへ散歩に行った休日の朝の事です。
もし突然車や人が来てビビりのマナちゃんが部屋の中に逃げ込めるように散歩の時は少しベランダの窓を開けていました。
戻ってみると…
ルイちゃんが部屋の中に入っていたのです!
水をガブガブ飲んでいます。
そして飲み終えるとベランダから外へ出て行ったのです。
「お水をご所望だったのね」空は呟きました。
マナちゃんは嫌な感じだと思ったようですが、喧嘩にはなりませんでした。
なぜならルイちゃんがものすごく低姿勢だったからです。マナちゃんの様子を伺っているのが空にもわかりました。
月曜日~金曜日は会社に行かなければいけない空でしたが、ルイちゃんの飼い主さんの出勤が6時なので、空の出勤する7時50分までは時間にずれがあります。
水を飲みにルイちゃんが来てもある程度の余裕はあります。その週は3日間ルイちゃんが顔を出しに来ました。
どうやら飼い主さんが出掛けると直ぐに来ていたようでした。
次の土曜日の事です。
ルイちゃんは朝ベランダから部屋に入ってくると、マナちゃんとの距離を置くようにして座りました。
飼い主さんの様子はわかりませんが、車は駐車場にあるので家にいるはずです。
スーパーに行くために空が玄関から出ると、丁度ルイちゃんの飼い主さんに出会いました。
「ルイちゃんが家に来ていますが」と空が言うと「そうっすか、実は俺は週に何度か夜の送迎のバイトしているんで。昨夜も送迎で」空はその答えに送迎が代行運転だと思いました。代行運転ではなく、ホステスさんの送迎だと知ったのは暫く後の事です。
その後、何度か立ち話をする間にルイちゃんの飼い主さんの事が少しずつわかって来ました。
「僕マラソンのためにこのアパートに引っ越してきたんすよ」
ここで初めてなぜいつも走って行くのかがわかりました。
「マラソンでは有名なんす、ここの管理会社の人も俺の事を知っていたし」
な・な・何なんですか~?
ルイちゃんが来てるって言っているのに自分の事を話すルイちゃんの飼い主さんに「そうですか、マラソン頑張って下さいね」と礼儀上そう言わざるを得ませんでした。
「へい、じゃあ俺走ってきますんで」
それだけ言うと走って行ってしまいました。
それからルイちゃんは空とマナちゃんの部屋に毎日来るようになりました。
マナちゃんと1年半暮らしてきたアパートに猫を飼う人が引っ越してきた事だけでも、空とマナちゃんにとっては大きな変化だというのに部屋に入ってきたルイちゃんに戸惑いを隠せない空なのでした。
戸惑いは始まったばかりですよ、空さん。
あらあら、影の声である私がこんな事を言ってはいけませんね。
続きは次のお話しで…。
第8話 引っ越してきた猫に会う
隣の隣に引っ越してきたルイちゃんという猫は鳴き声だけは聴こえますが、なかなか姿を見ることが出来ませんでした。
ある夜、空と外に出たマナちゃんは猫(ルイちゃん)の匂いを感じたのかルイちゃんの部屋の玄関の前で立ち上がって匂いを確認していました。
『マナは猫が引っ越してきたことがわかるのね、犬は鼻がいいと聞くけれど猫も鼻がいいのかしら』と空は思いました。
そんなある日の夕方、ベランダの洗濯物を取り込んでいた時のことです。
ひょこんとベランダの柵の向こうに、こちらを見ている猫がいました。
「あら!もしかするとルイちゃんかしら」
空はスマートホンをとっさに出して写真を撮りました。
一目見ただけですが、片耳がアメリカンカールのようにクリンと外側にめくれていました。
「可愛い・・・」と空は思いました。
その数日後、仕事から帰ってきた空はバッタリとルイちゃんの飼い主さんに会いました。
「こんばんは」と挨拶をする空にルイちゃんの飼い主さんが「僕は小学校の時にカビの生えたパンを食べていたんだ」と自分の育った境遇を話したのです。
『な・な・なんなんですか~?』
何だか難しそうな人と感じていた空は驚いてしまいました。
動揺しながらもルイちゃんの事が気になっていた空は「ルイちゃんは家の中ですか?」と聞きました。
「おいルイ!」と言うとルイちゃんがヒョコンと玄関から出てきました。
『やはりベランダから覗いていたのはルイちゃんだったのね』そう思った瞬間の事です。
「ルイと遊んでいて下さい」と言うと彼はどこに行くのか走り去ってしまいました。
『そ・そ・そんな~!』
初めて会った猫が空と遊べるはずはありません。
そんな空の思いのとおりに、ルイちゃんという猫はトットットと走り去っていきました。
大丈夫かしら…
一応遊んでいて下さいと言われた空はこのまま放っておいていいのかしら?とアパートの回りを見てみましたが、ルイちゃんの姿はありませんでした。
部屋では空の帰宅を待っているマナちゃんが待っています。
「マナ、ただいま」と言いながら玄関の扉を開けました。
季節は夏!
空が帰宅する6時はまだ明るいです。
着替えて1日お留守番していたマナと短い散歩に行きました。
マナちゃんはとてもうれしそうです。
散歩はいつもアパートの後ろの駐車場です。
空き地のフェンスに沿って歩くマナちゃんはフェンスから飛び出たネコジャラシの草で遊んだり。
ソロリソロリと歩くマナちゃんの白い4足の足袋が何ともきれいだなと思う空なのでした。
アパートの後ろの駐車場は何台か車が駐車している程度ですが、その方々はマナちゃんが空と散歩をしていることがわかってくれるようになり、すごくゆっくり入ってくれるようになっていました。
とはいえ、ビビりのマナちゃんが車に驚いてベランダへ走って戻ると危ないので、空は細心の注意を払い5分~10分程度の短い散歩でした。
休日の事です。マナちゃんはプランターの花に水をあげる空とベランダにいました。
そこへルイちゃんが現れたのです!
仲良くなれるといいなという空の思いとは逆に、マナちゃんは威嚇するような素振りを見せました。
ルイちゃんはそんなマナちゃんに何もしないよというように座りました。でもマナちゃんは他の猫に会うこともなく育ちましたので、仲良くしようというよりもやはり警戒し好戦的です。
そんなマナちゃんをルイちゃんが追いかけました。
マナちゃんはベランダから部屋の中に逃げ込みました。
空はその様子を見てルイちゃんが何とかマナちゃんに自分は何もしないよとアピールしているのを見逃しませんでした。
ルイちゃんはまるで「近くに住んでいるんだから少し仲良くしたい」と思っているようでした。
マナちゃんはルイちゃんのように外に慣れていない世間知らずなんだと空は実感したのでした。
さてさて影の声である私はここまで黙って見ていましたが…
少々お話しさせて下さいね。
貴女は隣の隣の隣人さんの身の上話しを聞いて多分『かわいそうな人なんだな』と心の中で思ったことでしょう。
そしてルイちゃんにはマナちゃんと仲良くしようとしていることを直感的に感じたのですね。
影の声である私は貴女が育ってきた過程と形成されたアイデンティティをよく知っています。
『短所は長所、長所は短所でもあるんですよ空』
この時から厄介な方向へ物事が向かっていくのですが、続きは次のお話しへと進みます。