第17話 空の決断
前話では飼い主のいる猫の難しさや、マナちゃんの妊娠と堕胎の心の負担までお話ししましたね。
『心が疲弊してしまった空』難しい生活を打開出来ない初めての経験でした。這い出そうとしても常識が通用しない経験は初めてでした。
12月に入り外は寒さが厳しい季節です。
ルイ君は飼い主さんが会社に行っている時は窓を開けているのですが、猫にすれば寒くて暗い部屋で留守番をするということが出来ない事はわかりきった事です。
そして何より飼い主さんは、帰宅しても寒くてたまらないのか、ルイ君が外に出ていても窓を閉めてあります。
マナちゃんは避妊手術をして傷口が良くなるまでルイ君を空の部屋に入れる事もできません。
空はたまらず「なぜ窓を開けてないのですか?ルイ君が部屋に入れないので私のベランダに来るのですが」と言いにいきました。
その日は分かったと夜は窓を開けてありました。しかしそれも2日~3日しか続きませんでした。ルイくんの飼い主さんにたまらず「ルイくんが帰ってくるまで窓を開けておかないと絶対零度の刑やしね」
その頃テレビ放送していた『ドラマ絶対零度〜未解決事件特命捜査〜』をもじって言い続けました。
『ひゅー!絶対零度の刑やな』とほろ酔い加減のルイくんの飼い主さんはヘラヘラと空に笑って見せました。
な・な・なんなんですか~!
まったく懲りていないようです。
そしてルイくんは毎日ベランダで空か仕事から帰って来るのを待っていました。
「ルイはあんたに任せるわ」とルイの飼い主さんは言いました。
「本当に私を信用してルイくんを任すことが出来るのですか?」
「ほい!」
そして何度か警察にお世話になった事もあり、空は「このアパートから引っ越ししよう。仕事は実家に帰れば遠くて通えないし、仕事をやめよう」と決心しました。
それは短絡的な考えであった事に空はその後に気づく事になります。
仕事は有給休暇を消化して辞表を出してしまっていました。
仕事を退職したという事で、後日実家で家族相談がありました。
猫アレルギーがあるから飼えないとの事でした。「猫さえおらんとけばな」
な・な・なんですか~!
空は実家に帰れば良いという自分の考えが甘かったと思いしらされたのでした。
その後はとりあえず失業保険で暮らしていくことになります。
ルイと本格的に暮らし始めた空は仕事をやめて正解だったなと思える事もありました。
ルイくんは台所の扉を開けると何とかして外に出ようと隙を伺っている日々が続きました。
今まで外に自由に出ていたルイくんを1ヶ月以上「お外出れないよルイ」とベランダの網戸を閉めて言い聞かせました。マナちゃんの小さな頃と同じです。
それは、一緒に外に出たいからの躾でした。
猫1匹と思われる方もいるかもしれませんが、猫1匹を引き受けるのは空にとって自分の全てを捨てて全てをかけなければルイくんを守る事ができませんでした。
季節は冬から春へと流れていきます。
ルイくんとマナちゃんと空+ルイの元飼い主さんはこの先どうなるのでしょうか…。