最終話 猫は飼い主と歩むもの
会社のランチタイムは12時~13時です。
「やはり今日は行かなくちゃ」
チャイムが鳴ると同時に外へ飛び出しました。
【暑い夏が過ぎ、看板猫さんは元気にしているかな?】
そのいっしんで走りました。
ランチは焼きそばかトーストを出していらっしゃいますが、手早作ってくれる店主のおばさん。
それでも会社の午後の始業時間にはギリギリです。
「こんにちは、チロちゃんは?」
看板猫の名前はチロちゃんです。
「チロは10月5日に私の腕の中で息を引き取ったよ」
焼きそばを作ってくれながら、穏やかに答えてくれた店主のおばさんの顔を見ました。
チロちゃんの小さな写真が棚の見える所に飾ってありました。
「そうでしたか、前に来たときチュッをしてくれて可愛い子でしたね」
ようやく絞り出すように言いました。
「みんなに可愛がってもらって幸せだった」
店主さんと共に17年間生きたチロ。
穏やかに話すおばさんに人生の先輩として喜びも悲しみも包み込む優しさと経験を感じました。
異常なくらい暑かった今年の夏。
それでもおばさんと生きよう、地域猫さんや出たり入ったりですがアヤメちゃんという牛柄の猫に優しく接していたチロちゃん。
何度かお店の前を通って会社に向かった時に看板猫のチロちゃんの妹分の猫さんの名前が【アヤメ】だと聞き、驚きました。
マナを送ってくれたカスミちゃんと一緒に散歩してくれていた猫さんの名前が【アヤメ】だったのですから。
お店に行ってから1ヶ月も経たない頃、私がお店の前を歩いていると、看板猫の店主のおばさんに会いました。
「おはようございます、どうしたのですか?」と尋ねました。
「アヤメがウロウロして車にひかれるかと」
アヤメちゃんが道路を渡っていく姿が見えました。
「車にひかれることはないとは思うけれど、本当はチロがいなくなってから淋しそうにしているのが心配で見てたんだけれどね」
店主のおばさんと共に歩いた18年。
私はなぜチロちゃんの最期の夏に出会う事ができたのかな…
そんな事を考えざるを得ません。
【猫は飼い主さんと共に歩く動物】
それを教えてくれたのかもしれません。
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そんな夏~秋の初めでした。
しかし、マナと私の近くに試練となる事が待ち受けていたのです。
猫同居型アパートになって4ヶ月後にマナを拾ってから初めての猫を飼う人が引っ越してきたのです。
時は7月末のことです。
この猫と飼い主さん、そしてマナと私に起きたことについては、このブログの中で物語としてお話ししたいと思います。